生産性の向上や、人員不足対応としてロボットの導入がかなり前から言われている。
そんな中、従来の産業用ロボットから人と協調作業を行うと言う意味からも、協調ロボットが2015年くらいからもてはやされてきた。
しかし、実際のところ10年弱が経過した今も、思ったほど協調ロボットの普及は進んでいない実体がある。
どうして協調ロボットが普及していかないのだろうか?
ロボット導入を推進し、コンサルに近いような仕事をずっと続けてきて納得がいく理由が1つある。あくまでも経験則から個人的な意見になってしまうが、間違ってはいないような気がする。

協調ロボットの導入が進んでいかない理由を自分は次のように結論付けました。検討をしていた会社に殆ど当てはまる内容ですので、ほぼ間違いないのでは無いかと思います。
ロボットを導入し効果を出していくには、まず生産プロセスの考え方を変えていき、導入後も環境に合わせた調整が必要。
つまり殆どの会社で求めている、購入した次の日から即効で出る効果は期待してはいけないということですです。
協調ロボット導入が進まない理由
今まで多くの大中企業の方と話をしながら、聞いた内容をまとめてみると、大体次のようにまとまります。
- 導入さえすれば、改善が勝手に進んでいくと思っている
- 即効性の効果を求めすぎる
- ロボットは万能だと思っている
- そもそも現状の課題、問題点が分からずにロボットを入れている
- 産業用と比較すると柵も要らず安全だと信じ込んでいる
これらの理由って日本人独特の思い込みのような気もしないでも無いですね。
そもそも協調ロボットを導入する目的が、未だに不鮮明な会社が非常に多く、そんな中で導入を進めてしまうので結果が出ずに、協調ロボットは効果ないという風潮になってしまうのです。
特に理由の①は、大企業中小企業関係なくそう考える経営者が多いです。
つまり、①~③はペアで考えられており、万能なロボットを導入さえすれば即座に効果が現れていくと信じているんです。
信じていると言うより信仰しているという感じに近いですね。ロボット様々ですから。

協調ロボットを購入したり、レンタルリースしたりして会社に搬入される。そうしたら経営陣は明日からロボットがガンガン稼働して効果をバリバリ出していく、そう信じているんです。
そうしなければ、投資した分を回収する事ができなくなってしまいますからね。
ガンガン成果さえ出せれば、直ぐに投資は回収されて以降は全て改善効果として会社に貢献していくわけですから。
しかし、実際にはそうでは無いんですね。
なぜ効果が出せないのか?
最大の理由は、ロボットはなんでもできるという思い込みでしょう。
よく考えてください。
人間でも適材適所と言われ、得て不得てがあるように、ロボットにも得意作業やできるだけの作業、できない作業があるのです。
それを見極めないと、結局は何も使えないじゃないと言う結論になってしまうのです。
そして、有りがちな問題として現状の生産ライン(人作業者によるライン)をベースに一部や全部をロボットに置き換えようとしているからです。
これは既に人作業によりある程度の効果が出ているラインを、ロボット化すれば更に効果が出るだろうという安易な考えに基づいた検討をするからです。
先に申した通り、ロボットは人ほど器用に動きません。なぜならロボットには特異点という欠点があるからです。
※特異点 ロボットはその構造上、軸が一直線になった時など構造的に制御ができなくなる姿勢を特異点と言います。
つまり、人作業では単純に右から左へ直線的に動かす動作も、ロボットからすると特異点の関係で旋回しなければいけない等となるからです。旋回すると、周囲との干渉などの弊害が発生します。
このように、人作業ラインを置き換えようとするから求めるような動作ができず、効果が出せなくなるのです。
つまり、現状の人作業ラインの考え方を捨て、全く新しいロボットの動作を最大限に活かす為にはどうすれば良いかを基準に、生産ライン設計をし直さなければいけないのです。
また、ロボット化しなくとも自動化設備で対応できるところもロボット化しようとしている事も原因の1つではないでしょうか。
部品工場の全自動ラインは人作業ラインの何倍の長さになる
以前に完全自動化ラインと言われている生産ラインを見学した時の話になります。
この生産ラインは、作業工程1つに対して最低ロボットが3台導入されておりました。これは前に書いたとおり、ロボットの得意動作を最大限に活かしロボットと言えどもムダな動作をさせないために、複数台のロボットが導入されているのです。

更によく見てみると、この1工程の作業は人作業で実施すると1/3程度の内容しか有りません。
皆さんは既に分かりましたよね。人は複雑な作業も習熟しながら覚えて行くし、頭で考えて事前段取りをしたりもします。
ロボットはそんなことできませんから、先の得意動作を元に人作業の要素動作分析を実施して、その動作単位でロボットを割り付けていくのです。
従って、人が独りで作業する内容をロボットさせると多い場合は10台近くなる場合もあります。
従って、この部品生産ラインは長さが20m以上有りロボットは何十台も稼働しておりました。また工程間は自動搬送ラインが組まれており、工程間つなぎを実施しておりました。
トヨタ生産方式で言うと、独りあたりの作業領域は前後工程の支援を含めて60cmと言われています。ロボットラインではそんな考えは皆無ですね。
また、20m以上有る生産ラインは、どこか1工程のロボットが停止すると、全ての工程が停止してしまうので、チョコ停は許されないような状況になっており、保守や保全を行う作業者が人作業ラインより多く必要になります。
これは確実にデメリットでしょうね。
しかし、この部品生産ラインは20m以上有ろうともロボットの基本性能を最大限に活かした生産プロセスにより構築されているので、考え方としては正しいと言う事になります。
まとめ
協調ロボットを導入して生産性を効率化しようと言われ早10年。毎月のように全国のどこかでロボット展が実施され、そのたびに導入効果の説明などが行われている。
しかし、一向に協調ロボットの導入は進まないため中小企業への普及が進んでいかない。
理由は簡単で
- 現状何が問題なのかが理解できていない
- 単純に現状作業をできるところからロボットに置き換えようとしている
- 導入したら即効果がでると信じている
これらの考えを一旦全て捨て去る必要があると思います。
現状上手くいっているから、それをベースに自動化したら良いんじゃ無いと言う甘い考えは即捨てましょう。
そして、絶対に間違えないで欲しいのは、ロボット1台入れたから人1名削減できるよねと言う考えはあり得ませんから。
イノベーションと言われるように、現状の修正では革新的な事は絶対に生まれません。
むしろ、革新的なラインが出来上がるまで、現状の人作業ラインの改善を続けていき、平行してロボットラインをゼロから考えて構築するのです。
そしてそのロボットラインが要求するとおりの稼働になれば、人作業ラインは不要となりその作業者は新たな仕事の取り込みに対応することができるのです。
自動化できたから作業者はクビだではなく、元々存在した工数を使って新たな事に取り組めば、売上げが伸び固定費を変えないで利益を出すことができるようになるのです。
とにかく、現状の考えを捨て去ることがスタートラインにつくことです。
忘れないでください。
P.S.中小企業の方で、何が問題なのか分からないと言うような会社には、一緒に問題点を見つけ解決策を考えるお手伝いします。驚異ある方はメールで。
